〜猫曼荼羅の思想的楽しみ方〜

猫曼荼羅の思想的な楽しみ方や実用法を紹介したいと思います。

元々曼荼羅の発祥は修行を目的としています。悟るための修行。

高いレベルの僧侶達はテキストで書かれた「教典」を元に、高い想像力を駆使し自ら悟りの世界の仕組みを掴んでいきました。
しかし経典は「言語」をベースにしています。

サンスクリット語は「空間の響き」自体に意味を含んでいるので、現代的な言語と違って「意味を切り取りすぎない言語」。
意味を保持する精度が高いのですが、その分抽象度が高く、概念として捉えるのには難解な部分が多いのではないかと思います。

そこで言葉だけでなく、ヴィジュアルや所作（手印など）によって、視覚や触覚で実体感によりインスピレーションを受け取りやすくしたのが曼荼羅の始まりです。

曼荼羅に限らずですが、視覚的「イメージ」というものは、概念としてまだ理解できていないこと、また顕在的には知覚していないことを理解するために有効。あらゆる思想体系のビジュアルは多様されています。

私の作品は基本的に、概念として捉えにくい「精神構造」や知覚することが難しい「深層の欲求」などを認識するヒントになるように設計しています。

ビジュアル化した思想（猫曼荼羅など）を実用的に生かす場合には
「イメージの与える印象（感覚）」と「イメージと結びつく意味（知識）」の両方が必要になります。

純粋に「どう感じるのか」ということと、「知識的に知る」ことの２つです。
人はタイプによって「感じる」ことと「知識から考える」ことどちらの特性が強く出やすいかの違いがあります。

ですが直感型か思考型という分け方は少し乱暴で、「思考は直感の受け皿」という感覚が大切です。

知識がなければ、溢れんばかりの感性があっても自分の中を流れてさって取りこぼしてしまいます。
留まらず、身にならないということ。

逆に知識だけを重視すると、知っていること以外の世界にあるものを感じ取る力が失われてしまいます。
知識によって視野を広げるどころか、知識に縛られ抽象度の高い物事を切り落としてしまう。

感覚と知識をどちらも育てていくことで、猫曼荼羅に畳み込まれた仏教的な思想哲学が立ち上がっていきます。

〜感覚や印象を解読する鍵〜

蓮：
仏教では菩提心の象徴として蓮を描きます。菩提心＝悟りを求める心。
「悟り」を簡単に説明すると、精神構造と世界の仕組みを理解することで自我や概念的な縛りから自由になる。本来の自分の姿を思い出す。
蓮の花の開き度合いによって悟りの経過を表している。

東西南北：
曼荼羅では上が東、下が西。右が南、左が北を表しています。
仏教だけでなくあらゆる思想体系の中で方位には象徴的な意味が割り当てられています。（表す分野によって多少変わる）

多くの場合は太陽が昇る東をスタート地点と考えます。

東　スタート
南　表現、直感
西　成果、ゴール
北　最終結果、振り返り

他にも実生活に割り当てられる要素があって

東　知性、言葉、概念、分散、
南　生命力、熱量、アイデア
西　感情、味わう、浸る
北　固める、繰り返す、積み上げる

などがあります。

この順番から考えても、直感や熱量でスタートするのではなく、はじめに直感や熱量を受け取れる受け皿としての知性があることが現実世界においても、悟り（精神的に捉われのない境地）においても大事なことがわかります。

東西南北の各如来はそれぞれの要素の意味を表す色で描かれ、シンボリックな形を抱えています。

〜作品としての表現意図〜

流体や透明感：
猫曼荼羅に限らずですが私が描くものの多くは液体のような形状、半透明などの表現が多くあります。
基本的には「水」が意味することや精神構造にとって水が象徴することが重要であると言うことを伝えているものが多く、「猫は液体」というメタファーも重ねています。

幾何学：
幾何学形状は頂点の数によってあらゆる意味を表します。
猫曼荼羅では八角形を描いていますが。８は「この世界の完成」と言う意味があり、完成体でありながら同時に次の段階への縛りになりうるものを表しています。
「物資世界をハックする」リアリティ攻略のための明晰な思考を表すために使われたりもします。
＝この世を理解する

ちなみに、LLACのジェネラティブで出てくる五角形や７つの角を持つ星なども意味があります。

母体：
モデルになった胎蔵曼荼羅自体が菩提心を育てる慈悲や母性的な世界を表していますが、それ以外にも「母体、産む、育てる」と言う意味を込めて制作しています。

母＝自然界、環境、土台の象徴
父＝空、概念、頂点の象徴

縄文以降の文化では父権的な社会構造が継続していました。
母権、父権それぞれに良し悪しがあるのですが、偏りすぎると悪い部分が強調されるようになります。

権力、トップダウン、上下、管理する者とされる者、人間中心。これらは「父」という象徴の歪みによって生まれています。
絶対的な力や善があって、それに従う。そんな世界観。

父権の偏りが振り切った現代社会で、今母権的な要素への揺り戻しが求められています。

母権的な世界観は、自然中心（人間中心ではなく全体中心）、調和、死生観の重視、絶対的な正解ではなく多数の答え。

一神教やトップダウン的な世界観ではなく、八百万や多神教的なアミニズムの世界観。
全てのものに命がある。自分とそれ以外を分離することなく、同じ命として全体を作っている。共生の意識。

本来は母権的な土台を維持するために、父権的な管理能力が求められるというバランスが理想的なのですが、目的を見失った管理が権力やパワーゲームを生み出しています。

もちろん母権的な世界観も偏りすぎると、完全なカオスや惰性を意味出します。

今はリバランスが求められるほど、社会が父権的な偏りの限界に来ている（そして母権的な世界観に目を向けず生きている）ので、揺り戻しが必要。

「合理性や生産性」を重視しすぎることで排除されてしまっているものが母権的思想には不可欠。
合理性や生産性の外側の競技であるアートにはそれを伝える力があると感じています。

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